校長のつぶやき(65)2022年度をひかえて…The Future on the Horizonで考える


掲載日:2022.02.04

2014年から学校説明会で必ず取り上げてきた話題が2つあります。いずれも分かりきったことです。1つは、通信技術とAIの進歩によるSociety5.0社会の到来について。もう1つは、少子高齢化と人口減少についてです。子どもたちは、誰も経験してこなかった急速でかつ大きな変化から逃げられません。果たして日本の教育は、学校は、人々は備えをしてきたでしょうか。分かっているはずの未来の変化に対して危機感が薄かったのではないでしょうか。これまで以上に未来を見つめて教育を考える必要があるということへのリマインドのつもりです。

ICT とAI、ロボットの日常生活への浸透は、感じる以上に複合的に大きく早い変化となります。社会が求める人の力やスキルも大きく変わります。かつて切符切りの仕事が無くなった時、社会は労働問題として動揺しました。ICチケットになった時、鉄道の相互乗り入れで人流に変化が起こりました。on-line業務や会議が普通になり、職住環境への意識にも変化が現れ始めています。新しいシステムの到来は新しい生活の創造です。そしてそれが地球規模で起こっています。

日本の少子化はもう止まらないでしょう。高齢化で社会保障費の話題になりがちですが、生産年齢人口の減少で直面する諸問題をもっと深く考える必要があります。教育は経済活動の縮小や変化、就労環境の変化にもっと大きく関心を払うべきです。

日本の人口は予想されていた以上に早く減少します。今、22歳の人口は117万8千人。22年後の22歳は78万4千人、比率では66.6%と推測されます。今の中高生が35~40歳です。22年後に活躍している社会の風景は大きく変わっていると考えられます。国内グローバル化が進んでいるか、内需の変化で経済活動が大きく変化しているかでしょう。2008年に政府が始めた留学生受け入れ30万人計画はコロナ前の2019年度に(単年度の在籍総数で)31万2千人となりました。その内、2019年度に大学院・大学(学部)・短大・高専・専修学校・日本語学校等を卒業(修了)した留学生数は6万4千人。内、日本国内での就職者は2万3千人、36%です。日本国内の上級校への進学者は1万6千人、25%です。就職と進学が60%となりました。

日本は、国際収支では「貿易立国」は過去となり「投資立国」となりました。国民生活や経済は多くの企業の海外での活動に大きく支えられています。そしてプレゼンスが大きい日本の企業の活躍が、海外の若者たちの日本関連への就職希望を触発しています。日本で学びたい、就職したい、日本に関わる仕事をしたいという人々が増えている。日本の生産年齢人口の減少にとってはありがたいことです。日本の企業が頑張る今後もそれは続くでしょう。では、日本国内の子どもたちが付けるべき必要な力とはどんな力なのか?…これです。先は見えなくとも先見的に考えるべきなのです。これが冒頭で挙げた二つの話題の背景です。

僅かですが国際化教育に長く関わってきた経験から感じること…それは、私たちは日本の人口減少の未来社会とその中での人材育成について、あまりに楽観的過ぎたのではないかということです。予想される社会の変化への対応として学びたい学系や身につけたい力によっては、将来の人生への投資として、遅々として進まない国内大学の国際化と比べて、海外留学が合理的と判断してもいいでしょう。「獲得したい力」と「学費+生活費」との天秤で考えてみる。異文化・多文化環境での生活から獲得する力も含めて、将来に生きる力を学べる場所としての留学もあると…。留学を考える理由は、欧米への留学生が増えたバブル時代の状況とは明らかに違います。まだまだ一般的ではなくても、子どもたちがこれからの社会に何を備えるか、何を修めるか。未来は何とかなる…ではなく、自分を何とかしなくては…と考える岐路に立っていると思います。

海外進学で身につける力。専門分野の学びを別にして、大きなものは「環境適応力」と「多様性の中での自己実現力」です。この力の習得経験はよく「格闘経験」とも言われ、これからますます必要とされる力です。

日本の社会、学校では「多様性」という言葉がまだ特別感を持っています。共通する慣習や均質で同質感の比較的強い風土の中で育ちます。自分の個性やアイデンティティはあらためて意識するもので、「自分探し」も日本固有の表現です。しかし、文化や風習が全く違う国で様々な国から背景の違う目的で集まる留学生と一緒に生活し学べば、否応なくアイデンティティが問われます。アイデンティティは困難な状況を受け入れ乗り越えていく力とともに形成されていき、環境適応力と自己実現力の源となります。そうして単に語学力やコミュニケーション力だけではない、実社会に出てからでは身につけることが難しい一生の力を身につけることになります。

時代は進み社会が大きく変わる。高校卒業後の海外留学については、特に人文系や文理融合系の学びでは広く考えるべきと思います。異文化の世界に漠然と夢を描くような、日本での進学の感覚とはちょっと違う感覚で留学を捉えるのではなく、留学も進学であって、将来の仕事と暮らす社会に対する視野(horizon)の獲得としての進学として捉えるべきです。分野が特定される理系は、科学技術立国の日本です、国内での学びで修め国際的な学びは後に考える環境があります。しかし、文系は国家資格系や固有の学系でない限り、少子化と国際化を意識し近未来の社会に起こりうること(on the horizon)へ備え、留学を考えてもよい時代に来ていると感じます。

近未来の日々に起こり得ることを見据えるYou are looking to the days of the future on the horizon ― 。六浦は、その教育環境も提供する学校と変わりつつあります。