校長のつぶやき(69)未来からの風に向かって立ち、社会を眺めよう
掲載日:2022.07.28
先週の土曜(7/23)が1学期の終業でした。終業式での校長メッセージ(抄)を掲載します。
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コロナ感染が再び増加する中での夏休み突入で気の重い夏休み入りですが、夏休みにしてほしいことをお話しします。
今週の水曜日20日の日本経済新聞の朝刊第一面は「JAL、3000人配置転換……格安・非航空へ……需要変化に対応」という見出しの記事でした。日本航空グループは2025年度までに従業員約3000人の配置転換をする。グループ中心の航空事業からLCC(格安航空会社)へ、また、クレジットカードとタイアップしているマイル事業などの航空事業ではない業務へ配置転換するという内容でした。
記事によれば、JALは、2022年度は国内線の需要はコロナ前の9割まで回復、しかし国際線は5割弱しか回復しないと見込む。ビジネス客は、世界的リモートワークの広がりで出張が減っている。一方、LCCの主要顧客は観光客でコロナ後の回復が比較的早いので人員を増やす。また、マイル事業は会員が約3千万人。コロナ禍でもクレジットカード決済などに伴うマイル事業の収入は比較的安定している。さらに今後、金融サービスや通販など航空以外でも顧客がマイルを使いやすくしたり、電子商取引(EC)事業を拡大したりするため人員を厚くする、とありました。社会の変化に合わせて、会社の事業を変えてゆくということが起こっています。
4年前、2018年の校報で「教育観のパラダイム・シフト」と題して「学び」の変化の必要に触れました。高3生が中2でしたからもう昔ですね。ちょっと難しい内容だったかもしれません。そのメッセージの中では、20年前の2000年代前半の家電業界の大リストラを紹介しました。液晶テレビ…これは死語ですよね、いまのディスプレイのテレビが出始めた頃、それまでのブラウン管のテレビに対して「液晶テレビ」と呼んだのです…日本の家電メーカーがその液晶テレビの世界の大きなシェアを占めていました。けれども韓国企業に首位を奪われた。冷蔵庫や洗濯機という白物家電のシェアは中国に奪われていった、そしてリストラが起こった…という歴史。家電メーカーの話は、あの企業に勤めたいからあの大学に入学、だからあの高校、あの中学…それでこの塾に…、という進路ルートを考える、つまり幸せな人生を夢見て就職先を有利にする学校選びをするという「進路方程式」が、もはや万能ではない時代となったということの例でした。これからは社会が変わるということを、以前にも増して意識すべき時が来た、と書きました。
大きな変化の未来の中に進路を考えるとき、3つの観点を意識すべきと書きました。1つ目は、AIとロボットやRPA(Robotic Process Automation)の浸透とEC(電子商取引)の発達で、会社の仕事もオフィス形態も変わるという点。2つ目は、少子高齢化・人口減少で消費傾向が変わるという点。3つ目は、生産年齢人口の減少によって日本国内で働く人のグローバル化が進むという点。少なくとも3つの観点を意識することが進路選びで大事だと述べました。
ところでいまはどうでしょう。これら3つにコロナ禍による変化が加わり、いびつに進んでいるようです。特に、AIやDX、キャッシュレスが圧倒的に後れている日本。急激な変化が始まりました。日経のJALの3000人の配置転換の記事はその1つの大きな事例と読めるでしょう。
大学入試にも如実に変化が現れてきていると感じます。コロナ禍の中での昨年2021年入試。異変が起きているという記事が散見されました。有名大学の国際系学部がこぞって志願者を減らしている。一方で、首都圏では進学校と呼ばれてきた高校で、また地方の高校も、海外大学の受験と進学者がじわじわと増えてきている。調べてみると海外大進学で顕著な傾向は、経済・経営、観光、芸術、メディア映像制作、社会学系、統計やデータサイエンス系などの学系で志望者が増えているらしい。これらはどうやら、日本が国際競争力で弱い学系でしょう。また、将来の仕事を考え、「学び」と同時に「国際性」の習得を考える人が増えてきたということでしょう。
今年度2022年、4月始業式。私は、ロシアによるウクライナへの侵略行為で食料問題が世界的な規模で起こる、目を向けよ、と述べました。かつては「ヨーロッパのパンかご」、いまは「世界の食糧庫」と呼ばれるウクライナで小麦栽培が数年にわたって不作になるだろう。畑の戦場化、農道や主要道路への地雷埋設で社会が動かない。農民が不足。はたまた様々な問題と絡んで化学肥料が不足し、栽培しても十分な収穫にならない。化学肥料や農薬の問題は深刻なのです。
化学肥料や農薬の重要性は、いま起こっているスリランカの政変で明らかです。日本のニュースでは、スリランカは中国の債務の罠で財政破綻したというストーリーが主流を占めていますが実際はそうではない。詳しいニュースがそろそろ出始めます。3年ほど前に大統領が深く考えず、思い付きのように強制した有機農業が理由です。世界に誇れる安全な農業と言ったものの収穫量は激減したのです。化学肥料や農薬を禁止した農業政策でスリランカの収入を支える農業が壊滅。国が財政破綻。エネルギーの石油を買うお金が無くなって国がストップ。国民が怒った。身の危険を感じた大統領が国外脱出、そして大統領辞任、という構図です。
ウクライナに話を戻します。始業式では、黒海の港が使えず小麦の輸出が止まる。世界中に玉突きで食糧問題が広がる。食糧不足の問題が近々叫ばれる。1995~97年の食糧危機では世界で紛争が起きた、と述べました。23日今朝、ニュースではロシアとウクライナとトルコと国連が協力し、安全な輸出を保証すると報じられていました。が、どうなるかわからない。この時代に戦争を起こす国には倫理観などないでしょう。武力侵攻に対する制裁で輸出が止められているロシアの小麦の輸出も認めろ!というロシアからの駆け引き、圧力がある。どうなるかは分かりません。
目を転じて日本。日本はエネルギーを海外に依存。年々食糧自給率も下がっており、カロリーベースの試算で過去最低の37%です。日本の課題は色々あります。しかし、かつても同じように大きな課題がありました。高度経済成長期、日本は工業の発達で河川や海が汚れました。目も開けられない光化学スモッグ、大気汚染、公害の先進国でもありました。しかし、克服してきました。 進路を考えることは将来を考えること。日本の国の中でのこれまでの経験や感覚だけからではなく、世界や社会の変化を眺めながら考える必要がかつて以上に大きい。そして誰もが平和を望んで、新しい未来をつくる責任と義務がある。実はそこに学びのきっかけもある。夏休みは落ち着いて、あらゆるメディアを通して、未来からの風に向かって立ち、社会を眺めてみましょう。