校長のつぶやき(88)&(89)「2024年新年のご挨拶」「2024年からの六浦中高は…」
掲載日:2024.01.01
「2024年新年のご挨拶」
あけまして、おめでとうございます。
今年は、新年を寿(ことほ)ぐ言葉に心が本当に痛みます。
ウクライナ侵攻の泥沼化に加えて、ハマスとイスラエルの戦争の勃発。凄惨の連続。ガザ地区への爆撃がクリスマスも止まりませんでした。報道では、フランシスコ教皇がクリスマスのメッセージの中で、命を奪われる子どもたちを「今日の小さなイエス」と呼んだとありましたが、小さなイエスの意味をどう受け止めればよいのか。
意味の重い言葉も、強いリーダーシップも、どんな和平案も無力さを感じさせます。しかし、誰もが知るべきことがあるはずです。いったい、「シャローム」とは誰がどこで語るのか。イスラム教もユダヤ教と同じ『旧約聖書』を聖典の一つに持っています。戦争の当事国はもちろん関係国もキリスト教、ユダヤ教、イスラム教に精神的・歴史的に依って成り立ってきました。そしてその指導者たちや民衆も、共通する旧約聖書に記されている神と人との関係をよく覚えているはずです。神を、自らの民族の存亡をも支配してきた神として知っているにもかかわらず、なぜその重い経験を無視するのか。指導者は神のみを畏(おそ)れ、歴史の中での神の怒りのあり方の無理解について、真摯にかつ謙虚に読み返してみるべきなのです。
On-lineで交流授業を共にしたパレスチナの高校生が心配でなりません。キリスト教に依って立つ本校は小さな存在であっても、関係国の指導者たちには、利己心のみの愚かしい選択に固執するのではなく、聖書に、そして神の経綸(けいりん)に還ることを強く訴えたい。そして神様には、指導者に翻弄される弱い命の重みをあらためて顧みていただきたいと祈るのみです。 2024年が世界にとって、どうか歴史の見つめ直しの年となりますように。平和と安寧が訪れますように。
「2024年からの六浦中高は…」
2023年は関東学院六浦中・高の70周年でした。10年前の60周年を経て、激動の未来に向けて新たに教育の在り方を考えるべきとして、教育事業の改廃と新設を行ってきました。
大げさに聞こえるかもしれませんが、本校の学校事業は、世界を宗教(信仰)と経済の動きと、そしてそれらが複雑に絡む地政学的な動きで知ることが大事であるとして行ってきています。語学研修も国際社会の理解を目指して英語圏に限らずアジアや中東にも広げてきたことも、帰国生や留学生の受け入れを柔軟に行える寮を設置したことも、それが理由です。
ただし、全ての根底には、日本社会にあるキリストの教えに立つ学校として、「人になれ 奉仕せよ」をあらためて覚えることがあります。「聖書」や「礼拝」の時間を生徒が自らの生き方を考える時として活かし、公教育機関としての使命と内実化を深めることへの強い意識があります。その意識の上での教育を、平和な国際社会への実現に向けた有為な人材育成の営みと据えています。これが、関東学院六浦の強みであり、いっそうの特色としたいところです。
さて、昨年12月5日、15歳対象の「PISA2022(学習到達度調査)」の集計結果が発表されました。欧米諸国と日本など38カ国(2022年9月時点)のOECD(経済協力開発機構)は3年毎にPISAを実施しています。今回調査に参加した国・地域は81でした。
日本の今回の結果では、数学的リテラシーでは81参加国・地域で5位(OECD加盟国中で1位)。科学的リテラシーでは2位(同1位)。読解力では3位(同2位)でした。日本国内のマスメディアは毎回、結果に大きく一喜一憂します。一様に順位では前回の結果を大きく伸びたとありました。たしかに嬉しいことです。調査結果では、「社会経済文化的背景(ESCS)」が高いほど習熟度が高い生徒の割合が多い(ESCSが低いほど習熟度が低い生徒の割合が多い)という傾向が見られるとありました。その中での日本の特徴は、数学的リテラシーの平均得点が高い国々の中ではESCSの水準別で比べた「差が小さい国」であること、かつ、「ESCSの生徒の得点への影響が小さい国」と報じられていました。これも嬉しいことです。が、ちょっと長いスパン(社会も人生も)で考えたいところです。
15歳です。アカデミックスキルの基礎基本の段階です。共通する一定のアカデミックスキルを国民が均質に高めることの重要性は、日本はかつての高度経済成長期に実感しました。また、経済の成長に伴うべき国民の民度(誤解を招くかもしれませんが)の向上や維持にしても、アカデミックスキルの均質的な高さが重要なことは、これまでの日本(人)社会での経験や、グローバル化で人流が進む国際社会の現実を見れば明らかと言えます。
しかし、ICTやAI、IoT、ロボティクスが急伸するこれからの国際社会のあらゆる変化を眺めれば、学力では、アカデミックスキルへの習熟とは別に、主体的な探究力や解決力、協調する力、それらを底支えする「語学運用力」+「語学力に支えられるコミュニケーション力」の増進が必要なことは言うに及びません。
これまで、学校説明会や講演、「校長のつぶやき」などで、日本の教育・学び方の特徴とこれから求められる力について触れてきました。日本の教育が世界の教育理論(学習観)と比べてガラパゴス化しているとも言われる中で、学習指導要領の改訂とともに改革が進められていますが、今回のPISAの結果から考えるべきことがあると感じます。
基礎的リテラシーが平均的に高いことはとても嬉しいことです。が、日本の教育の特徴の、学習成果の評価の中心に行動主義的な学びとその評価方法による学びのインセンティブがまだまだ染みついている…その表れ(現れ)と言えるのではないかということです。教育学者の論を待ちたいところです。
日本の生き残りには科学技術立国であることが国是とされています。ですから基礎的なリテラシーの高さを学校教育に構造的に求めることは重要です。しかし一方で、さらに創造的に国際社会を日本(人)が牽引するには、学校での学びがこれまで以上に創造的でかつ主体的な学びであることの重要性が求められます。それについては、どこの学校もそれぞれの学校事情で難しい舵取りになっていますが、関東学院「六浦学校群」は昨年、ぼんやりとですが新たなテーマをそこに設定し、改革を前進させます。
人口が縮小する日本。未来に生きる子どもたちには、その進路を自らの進路として、この広い世界の中で考えさせたいとしてきました。10年前、関東学院六浦に校長で入職したとき、一見放任に見えるユニークな学びも、また国内外を問わずの進路先も、活動では生物部のユニークな活動も、伸びやかな教育環境と特徴だと感じました。それが10年で深化し、内実のさらに整った特徴となってきました。
昨年12月、第67回日本学生科学賞中央審査会(全国レベルでの最終審査)で、高校1年生のTさんが「日本未来科学館賞」を受賞しました。先日校長室へ来室してもらい受賞報告を聞きました。(学校教育ではなく)家庭菜園で子どもの頃から芽生えた興味関心が、いまや自分の探究心へと深まり、『宇宙農業に向けたLED水耕栽培』という研究作品になったとのこと。語る眼差しに光ったものは、今の社会が未来に直面する課題(気候変動や気象の乱れに左右されない食料生産)を見据えながら今後も探究を進めていきたいという気迫でした。
本校の特色となっている選択制グローバル研修でも面白い取り組みが増えています。学校が提供する研修コースを選ばず代替研修として自分の興味と関心で研修を計画することができます(ただし、提出する計画が認められるとは限りません)。高校2年生のKさんはルワンダを研修先にしました。現地のNPOの主催する研修に参加し、自分でホフステード理論に基づいてあるテーマでの現地調査をするというものです。また、中学2年生のTさんは鎌倉幕府についての学びとして、調査計画を自ら立てて伊豆の縁ある地や歴史的な場所を探訪する、宿泊を重ねながら連関的にして探究を深めていきたいとしています。
関東学院六浦は、六浦小、六浦中・高の学校ベルトとして、学びの主体性を強め、視野を世界に広げることを意識します。未来を見つめることに息苦しさが漂い始めているからこそ、子どもたちには広い世界の中で自分を捉えることが重要であると伝えたい。箱庭的な学び、オードブル料理のような学びの素晴らしさとはまた別に、これまでの大人世代が意識してきた以上に真に実質的に、主体的な学びと国際化への教育を実践することが重要と考えています。
六浦中・高は2024年、あらたに前進したいと思います。
2024年1月1日 学校長 黒畑勝男