校長のつぶやき(96)「土曜金融教育講座」が始まりました…なぜ、金融教育?


掲載日:2024.05.14

金融教育と聞けばマネーゲームや投機的なテクニックの学び・・・と極端に誤解される方も少なくないでしょう。本校はこれを大きく懸念しています。この本校の考え方を十分に理解していただき、ご自身もそうした考えの中で教育実践されている本校のOBで税理士、文教大学非常勤講師、横浜市立中学校元非常勤講師の野澤澄也氏を講師にお迎えし、「未来を見つめて親子で金融について考えましょう」をテーマにした5回のシリーズの金融講座を始めました。

第1回目の5月11日(土)。生徒対象ではなく、保護者を対象にした主題「金融講座を始める前に」は講座の方針を伝えるための講義。冒頭にビデオで、衆議院議員で総務大臣政務官の小森卓郎様と同じく衆議院議員で内閣府特命担当大臣の小倉將信様からのメッセージを紹介させていただきました。お二人は金融教育の必要を説く活動をされていて、本校のOBで現在SBIホールディングスの顧問、大阪は堂島取引所の取締役会長でいらっしゃる重光達雄様のご紹介で講座への心のこもったエールを送っていただきました。

「学校と家庭が一緒になって次世代を担う子どもたちへの良い学びになるということ」、そして「健康寿命とともに経済寿命の意識が大切で投資詐欺の被害に遭わないためにも金融経済教育は重要である」という冒頭のメッセージから、金融教育はテクニックを学ぶという浅薄なものではないということを最初に感じることができました。

さて講座の開始です。序論として、スペシャルゲストとして金融庁からお越しいただいた金融経済教育担当の岸本浩介氏から対面で、一般的に、いまなぜ金融経済教育が必要なのかをうかがいました。経済成長が著しい国々が増える国際社会の中で、家計金融資産形成の考え方の育成が特に日本は必要であるということ、また、金融に関わる広い知識は子どもたちの将来のトラブル回避のために必要であること等々。国が「金融教育」を健康的で安全な人生を送るための必須の教育として学校現場に普及させたいと考える理由を直接、その仕事の「統括補佐」の立場での言葉としてうかがいました。

本論では講師の野澤氏から保護者向けとして、生徒達に行う講座のコンセプトについて具体的でかつ家庭での親子の対話を意識しながらの和やかな講義をいただきました。実質2時間・・・。金融教育講座とはいうものの、この後4回のシリーズで生徒たちと学んでいくことの根底に据えたいとする「お金」や「仕事」についての考え方を中心に、長い時間を感じさせないお話や子育ての中で大切なこととしての大人向けの質問、小さなワークショップなどで時間が進みました。楽しく、しかしチャップリンの名言「人生に必要なものは勇気と想像力とほんの少しのお金だ」などの引用も交えて、哲学的でもあり倫理的でもあり、とても大切で教育的なお話でした。

2100年には人口が5千万を割り込むかもしれない未来の人口減少社会を見つめ、子どもたちを待ち受けるその社会(世界)を知って、その社会(世界)で子どもたちが何を担うのかについても考察する。「時代に備える」という観点で考える。また、間もなく18歳で成人して社会に飛び込む子ども達の自分を守る力の育成の観点からも講座を進めていく、というお話でした。参加された60名の保護者の方々は、和やかな雰囲気の中で「金融教育」の定義をあらためて考えていただけたように見受けました。

人口縮小社会の捉え方では、人が少なくなることで何が起こるのかを考えつつも、一人当たりのGDPでは人口の少ない国々が上位に位置する世界の情勢から考えれば、日本は必ずしも難しい方向に進むのではないという考え方なども金融教育を通して考えてゆく、などとも語られました。子ども達に対して分かりやすく、投資、ギャンブル、投機、ゲーム、詐欺、色々なローンの種類などと、様々な形をとって現われる商品やモノの性格を具体的に考えさせながら、リスク・リターンを見極める目を育てる狙いでもあることが説かれていました。

さて、本校はこの講座開設準備に2年を費やしました。時間をかけたのは、なぜ金融教育が必要なのかへの焦点の明確化です。先進国と呼ばれる日本ですが、「金融」と「プログラミング」教育はOECD諸国の中で情けないほど絶望的に、本当に、後進国の日本です。

ちょっとつぶやきますが、30年前、アメリカの小中高の教育視察研修でのことです。高校2年生が住宅ローンの利子や返済計画の組み方を勉強している授業を観察し衝撃を受けました。日本でもやっとPBLでの学び方が増えてきましたが、実学(実用)的に社会を学ぶ教育方法では日本は圧倒的に遅れています。ですから皮肉にも「金融教育」は先駆的な分野になってしまいます。が、六浦中・高での実現を阻んでいたのは授業とするノウハウがない、企業PRの匂いないよい教材や教える方に恵まれないという現状でした。今回の開始で、このシリーズ講座やこれに続く発展的講座を六浦中・高の定番にすることができれば…と考えています。六浦中・高は「学びを社会に繋ぐ」。この精神を進めていきます。