校長のつぶやき(99)「人口減少の中へ生きていく生徒たちへの思い」


掲載日:2024.07.13

◆試験が近くなると利用が多くなる教員室前の自習室。この自習室には早朝の7時から、放課後は下校時刻18:30のアナウンスまで、黙々と勉強する姿があります。微動だにしない後ろ姿、一定の角度で参考書を見続ける横顔、書き走るペン先を追う視線。私はジーンと胸が熱くなり、一人一人の未来が明るくあってほしいと強く思いました。

◆日経新聞の第一面、2024年度の採用計画に占める中途採用の比率が過去最高の43.0%(日経新聞社の調査)となったという記事は4月8日。見出しは「中途採用5割に迫る」。昨年の同時期の同調査では37.6%でしたので、「5割」は活字の大きさ以上のインパクトでした。記事は、「人手不足を背景にした補充要因ではなく、戦略的に中途人材を経営に取り込む企業が増えている」と伝えていました。新卒採用で育成するメンバーシップ型ではなく、現実的に人手不足のために、ジョブ型やキャリア型での即戦力人材の採用が当たり前になったと言えるでしょう。

一方で政府は着々と入国管理法を改正し、足りない産業分野への外国人材の登用を合理的にする改正法を打ち出してきています。IT・DX関連での人材不足が叫ばれて久しい中、この春には、政府はインドやアジア諸国から人材登用を進めるという報道がありました。5月24日の日経新聞は、前日23日の日経フォーラム第29回「アジアの未来」の晩餐会で首相が、「ASEANと共同で、今後5年間で10万人の高度デジタル人材の育成を目指す」と演説した、と報じていました。国の支えを経済的観点から考えていく視点はあるものの、それを支えるのは日本の若者達という視点はあるのか…です。教育対策を置き去りにしていないかと感じざるを得ないのです。

◆もう12年前になります。サンフランシスコのシリコンバレーです。世界中から多くの優秀な人材が集まり、生じる経済格差から地域社会の穏やかな暮らしや安定が危うくなっているという実態を感じてきました。思わず日本を考えました。…人口減少社会と不足する人材の確保から国内グローバル化は進む…今の日本の教育事情では深刻な問題をもたらすかもしれない。

人口減少社会を考えて近未来に対応する教育を用意する。これまでのキャリアの中で長く提案してきたこともあり、この春の「中途採用5割に迫る」と「インドやアジア諸国からの人材登用を進める」というニュースは、サンフランシスコの思い出に似て迫るものがありました。ある景色が未来に見えます。見える景色をどう伝えるべきかと悩ましく考えさせられています。

◆自習室、黙々と勉強する姿。純粋な向上心。私が感じる危機感のままの気持ちで、さあ未来への備えをしなさい…と、考え方を押しつけるわけではありませんが、…思うのです。試験勉強に打ち込むひた向きさで時間軸上での遠くも眺めてほしい。それで、力は、急峻に変化していく社会に役立つ力を身に付けてほしい。染みついた日本の狭い学習観や社会観で未来への視野まで縛られないでほしい。必要なら学びのレンジを地球規模に拡げてほしい。

人口が減少する社会は、インフラの老朽化と不要化によって様々にゴースト化が進みます。首都圏も程度の差こそあれ同じでしょう。さらにAIやIoT、RPAが進んで職業ポストの数も大きく変わり、社会の活動のあり方も変わります。不足する仕事には世界中から、それも傾斜的に高度な分野に人が集まるようになります。その未来にたくましく生きてほしい。力をつけてほしい。

澄んだ瞳で見つめるべきものは近未来の大きな変化です。今は小さな自習室でも、心は、小さな世界で小さな軌道をとってはいけませんよ。…梅雨の夕方の自習室の景色。私は心を打たれました。