校長のつぶやき(101)2024年「留学生枠の拡大」の方針から予想する未来…その備えは
掲載日:2024.09.13
日本政府が2008年から始めた「留学生30万人計画」。外国からの留学生招聘(しょうへい)計画です。母国で高校を卒業し、または大学などに在学していて、日本の高等教育機関で学びたいという学生を迎える。目途は2020年度とし単年度あたりで招聘者を30万人にまで増やすという計画でした。福田内閣が掲げた日本のグローバル化戦略の一環。主として大学や大学院等へ優秀な人材を招く。留学生は卒業後、専門分野を活かして日本国内で就職するか、母国へ戻っては日本関連企業へ就職をする。グローバル化戦略と言いつつ、それは日本政府が留学生の卒業後の進路に国内就労を目論むものでした。
今年度(2024年度)の日本政府(文部科学省)奨学金留学生募集要項には、「日本において研究を行うことを通じ、日本と自国との架け橋となり、両国ひいては世界の発展に貢献するような人材を育成することを目的とし、以下の資格・条件を満たす外国人留学生を募集する(後略)」とあります。その「大学留学」に必要な資格と条件を満たすと、その個人には月14万円が「給付」されます。入学金・授業料は大学が負担しますが、日本への渡航旅費と卒業・修了後の帰国旅費(航空券代)は日本政府が負担します。専修学校の学生対象もあり、月額11万7千円、渡航旅費、卒業・修了後の帰国旅費を政府が負担します。
私は教職スタートの1980年代から、海外での学びと生活の経験の重要性を説いて、様々に奨励してきました。と言っても1980年代後半はバブル期の真っ只で、文科省が唱える流行りの「国際理解教育」に乗って実践していた内容は、今思えばほんとうに歯の浮くような内容だったと情けなく思います。
その後2000年から7年間、立命館アジア太平洋大学(APU)と立命館大学附属の中高3校との高大連携の創作の仕事に携わる中で国際留学生から多くのことを学びました。日本の高校生も高校卒業後の進路は、専攻分野によっては海外大学への進学を考えることが卑近に必要になる時代が到来する、これを強く予感しました。
それは当時、次第に大きく語られるようになってきた少子高齢化と人口減少問題とも関連していました。内需の変化の一方の労働力の確保の必要について、海外人材を考える風が強くなってきたからです。2008年の30万人計画が起こる素地にもなったAPUに積極的に関与していたから感じたことかもしれません。日本に国力があるから、国の経済力で母国と格差があるから、APUに留学に来る国際生。彼らのバイタリティに感じたことは、人口が縮小する日本では留学生に学ばれるだけでは将来バランスが崩れるということ。日本は海外に依存するからこそ、海外での経済活動に日本の人材が「確保され続ける」ことが一方で重要であること。海外進学はその個人だけの利益ではなく、グローバルに活躍できる世代が人口減少の止まらない日本の国力を支える、国益にもなる、という漠とした予感でした。いまそれを感じます。多くの国際人材の育成の必要性について、反面教師的な国内グローバル化の波から感じるのです。
皮肉ではありませんが、政府が2008年に唱えた「…日本と自国との架け橋となり、両国ひいては世界の発展に貢献するような人材を育成することを目的…」の逆バージョンで、「留学先で学ぶことを通じ、その国と日本との架け橋となり、両国ひいては日本の発展に貢献するような人材に成長すること」。これが、日本の中高生、大学生にもっと必要で期待されるべきです。
ところで今年、2024年6月21日!あらたに留学生受け入れの拡大が発表されました。第9回経済財政諮問会議で、①「新しい資本主義のグランドデザインおよび実行計画2024年改定案」と②「経済財政運営と改革の基本方針2024」が掲げられ、なんと!!新しい目標として、「2033年までに留学生受け入れを40万人にする」が立てられました。驚きました。
一方で「海外留学派遣年間50万人」も示されており、日本の若者への支援もセットにされていて一応は安心です。しかしその現実はどうなのか、なのです。実態から疑問が起こります。いま社会で広く認知されるようになった「トビタテ!留学JAPAN」。本校も毎年のように希望する生徒が応募しています。留学目的が評価され認定された1~2名がトビタッていきます。しかし、30万が40万と聞きながら、もう一方で「トビタテ…」の募集枠人数を聞けばびっくりです。高校生は4,000名程度、大学生は1,000名程度。しかも、高校・大学のいずれも5年間での募集予定数です。「海外留学派遣年間50万人」って、この「トビタテ!留学JAPAN」拡大の話なの?それは支給額を減額しての50万人ではないよね?それとも別案?「?」がいっぱいです。広く日本を眺めると、派遣留学に必要な英語力の教育をどう行うのか…これもまた疑問です。
2008年に唱えられた日本のグローバル化戦略の一環、「日本と自国との架け橋」人材の養成計画の「30万人」が「40万人」に増えたこと。また、30万人が達成された2019年に、入国管理法が留学生の国内就職の可能な業種の拡大へ改正されたこと、さらに2023年に同法は、高度な海外人材を受け入れるために改正されたことを含めて眺めれば、グローバル化戦略とか架け橋人材とかではなく、国内の人口減少を見越した労働力確保のための緊急的な政策です。
私は決して国粋主義者ではありませんが、教育に携わってきた立場から見れば、日本の若い力が母国の日本によって取り残されるのではないかと感じるわけです。日本の大多数の子どもたちが国内グローバル化の怒涛に呑みこまれそうな状況を危惧します。ただ、国内の労働環境のグローバル化が進むかどうかは近隣国の有能な外国人材の取り込み政策との競合もあるので不透明です。未来を悲観はしませんが、しかし心配は小さくはありません。
2040年問題がいろいろと指摘される中で、人口が減って国内グローバル化が進めばなおさら国際競争力を持つ人材の育成は大事なはずです。日本の政府は日本の未来を支える日本の子どもたちに必要な教育の国際化をなぜもっと果敢に進めないのか。直接的な生産労働人口の確保は国策として理解できる。しかし、外向き予算の拡大に不安を覚えます。それは、アメリカのサンフランシスコ、プア・ホワイトのような問題を想うからです。
日本の政府は国を支えることで必死ですから、そうなると留学生受け入れ枠の拡大から予想する未来への備えは若者自身の人生への想像力にかかり、個人の責任になります。国民は、子どもたちの学びの環境とそのレールの先を、遠く見通して考える必要がある。「英語を使える人になりたい」…のレベルでは不足なのです。ひと頃よく言われた自己責任とは、結局はこういうことも指すのかと嘆きたくもなりますが嘆いている時間はありません。
16年先の2040年問題で予想されている数々の課題は、いまの中高生が29歳~34歳になるまでに徐々に露わになっていきます。これまで以上に真摯に深く、タイムラインで学びを考えるべき時にいると思う2024年です。