校長のつぶやき(102)2024年…あらたなマインド・セットで
掲載日:2024.10.09
<東京都の人口増>
2024年1月1日現在の東京都の推定人口からお話します。東京都のHP、総務局作成の統計データで見ます。毎月の住民基本台帳上での人口の増減数から推計されている数字(エクセル表)です。東京都の総人口は14,105,098人。対前年同月(2023/1/1)比で70,237人の増加です。一方、同じく総務局の統計で東京都に在住する外国籍の人々は647,416人。対前年同月比では66,304人の増加。…えっ?そうです。東京都は、人口増の94.4%が外国籍の方々です。
<特定技能の資格者>
9月24日の共同通信社の電子版記事に、在留資格の「特定技能」での滞在者が6月末現在で25万1747人に到達とありました。「技能実習生」制度の見直しが進められ、国内在住の当該者の「特定技能」資格への異動が進んでいます。「特定技能」には1号と2号があり、1号資格には日本滞在に通算5年の上限があります。実質的に在留年限がなく家族帯同も可能なのは2号資格です。2号資格者は全国でまだわずかに153人で、残りの25万1594人の人々が特定技能1号です。今後は1号から2号への異動者も増えていくと考えられます。
9月30日の日経新聞電子版には、「ネパール労相、日本への送り出しは『特定技能』を軸に」という見出しの記事がありました。ネパールのバンダリ労働・雇用相は、「ネパールでは毎年50万人が労働市場に新たに入る。国内は10万人分の雇用機会しかなく、40万人は海外で就労せざるをえない。・・・」と語っていました。
<内外のニーズの合致>
ネパールの労働大臣の談話にみるように、日本国内の労働環境の国際化は国外からの浸透圧でも進むということでしょう。国内グローバル化は日本の人口減少という内側からだけの理由ではない。ここがポイントです。日本で不足のITエンジニア。日本政府はIT人材の確保として、「インドや東南アジアから優秀なIT人材を呼び込む」という方針を示しました(5月14日NHK WEBニュース)。インドは現在、ITエンジニアの数はアメリカに次いで世界2番目。2023年12月で推定300万人超(日本の約3倍?)です。インドは発展する工科大学で人材が育ち国も成長していますが、卒業生は就職先を求めて国外へも流出しています。インドは英語も公用語です。アメリカのシリコンバレーの1つのサンフランシスコ、高速電車BARTに乗って感じるアジア感…。ですから日本政府の方針も驚くことではない。両国の人材ニーズの合致が背景にあるわけです。
<国際化への対応力>
人数的に注目しなければならないのは前回の『校長のつぶやき』(101)、「留学生枠の拡大・・・その備えは」で取り上げた政府のインバウンド「留学生40万人計画」です。留学生には卒業(修了)後の国内就職へのビザのハードルが低くされています。高度人材または中核を担える人材として、在留の継続申請には回数制限がありません。日本に留まり、様々な分野で活躍する人々が増えていきます。いま大学生への求人が活況です。近未来はそこに国際色が深まるでしょう。
AI、ロボティクスが浸透してきています。職業や仕事はこれまでの経験では想像もつかない縮小や消滅、拡大や新出現が始まっていますが、就職環境での国内グローバル化が進めば、個人の専門力に加えて国際化への対応力は重要になります。国際化対応力の習得は、これまで以上に進路を考える重要な要素にもなります。
<社会見据えて「針路」の選び>
学校説明会ではこの10年間ずっと、日本の未来と国際化への対応力の観点から話してきました。日本の未来社会を考えれば、文系でも経済・経営系なら、日本特有の学びでなければ海外の大学に進学することがそれほど特別ではない時代がくる。グローバル化対応は大学入学から。学びと生活の両方でリアルに国際社会を経験して将来に備えるべきと話してきました。暴力的なメッセージかもしれませんが、それだけ大きく振れて良い時代だと思います。
しかし一方で、理系については大学を国内全国で探すべきであると強く勧めてきています。ロケーションを理由に首都圏に固執するのではなく全国区で探すべきです。地方の人口減少は首都圏に居て思う以上に深刻で、地方の国公立大学の入試倍率の低下も進んでいます。最適な選択が可能になっています。
特に工学部です。大雑把に言って、旧帝大などの難関国立大以外の国公立大は全般的に志願者の減少が4年連続で、北海道、東北、北陸、山陽、中国、九州・・・特に工学部の倍率が1倍程度のところが散見されます。ですから工学部志望なら、首都圏にこだわらず環境的に伸びやかにしっかりと学べる地方の国公立大の工学部を目指すことも先見的な進路考察でしょう。日本は工学人材の不足。特に女子にはチャンスです。考えてみるべきでしょう。OECD諸国の中で工学系の大学の女子占有率では最下位の日本。日本の社会は工学女子を求めています。
地方での学びと生活は、逆説的に未来に対する可能性を広げます。日本の未来に貢献する人材になる。国内外の未来を眺めれば、「進路」選びは今まで以上に人生航路の「針路」選びでしょう。
<あらたなマインド・セット>
2024年は、物流・運送の業界が直面する問題を「2024年問題」として語られてきました。しかし、2024年は入国管理法の改正がじわじわと進んだだけではなく、留学生の受け入れの推進が示されました。その陰に子どもたちの未来の進路にはだかる課題が見えてきた年だと思います。 国は人口が減少する日本の未来を調えていこうとしています。しかし学校から見れば、教育と絡めての配慮が薄い無機質な策に感じます。では、個人はどうするべきか、生徒は何を備えるべきか。10年後の社会への巣立ちに向け、どういう力を、どこで、どのように備えていくのがよいのか。2024年は新たなマインド・セットで捉え、大人が子どもと一緒に「針路」を考えるべき年と思います。