校長のつぶやき(33)新しい教育の内実化にむけて
掲載日:2019.07.10
ある保護者の方との会話です。話題がお子さんの本校への入学の理由に及ぶと、本人は説明会の雰囲気とキャンパスが気にいったということ。保護者としては教育の視野の広さだとおっしゃる。なんと、視野の広さと…! そして視野の広さとは、変っていく社会の「10、20年後を見て学びなさい」という学習の意味付け、体験を学習動機に結び付けようとする行事、「英語は教科ではない」という先進的な英語教育、この3点ということ。校長としてとてもうれしいお話でした。
何故、学習指導要領が改訂されるのか? 大学入試が変わるのか? 大学教育改革が進められるのか? これらは、これまでの教育課程や教育の方法、生徒の学び方を、急激に、がらりと変わる社会に合う内容と方法・形にしようとするものです。新学習指導要領は、その背景に経済界からの警鐘があります。もはや欲しい人材を育成できない教育、主体性を育てにくい学び方への危機感です。改革は単なる制度の変更ではありません。今までの経験から考えるのでは不十分。10、20年先の社会を考え、新しい力を育てる教育への思い切った改革なのです。ゆえに、学力観を今までの価値観で捉えて進路をこじんまり考えることから、思い切った脱却も必要なのです。
2001年にノーベル化学賞を受賞した野依良治氏が、「教育しんぶん」のインタビューで次のように語っています。
「世界が多様性の尊重に向かう中で、日本はなぜ、画一性にこだわるのか。民族性が関係するのでしょうが、私は全く理解できずにいます。」「もはや18歳人口はわずか118万人、1992年の205万人からほぼ半減した。私立大学の定員割れ状況をみても、国内の人材枯渇は明白です。さらに大学生については、国内外の「頭脳循環」(英語でいう「Brain circulation」)を欠くため、数量、質ともに危機的状況にある。このままでは座して死を待つのみです。」
野依良治氏の明確に批判する「画一性」へのこだわり。その指摘と、大学教育での国内外の「頭脳循環」が必要という指摘は、最前線で活躍されるがゆえに感じる日本の教育への危機感でしょう。六浦は、「画一性」や「同質性」への執着からの脱却には、将来に向けて未分化の内(中等教育段階)に、将来の可能性について広い視野から主体的に考える機会を持つことが大事としています。例えば一同一斉で同一の研修旅行は廃止。最適を最適な時期に選ぶ研修としました。利害関係を感じない学齢の段階で異なった価値観とダイバーシティに実際に五感で触れて経験することは、未来に向けての大きな力となります。生徒には、国内外を問わず複数の次元に生きるフィールドを示すことになり、日本の社会に対しては必要な人材の育成となります。校長として入職満5年。この間にそうして未来をのびやかに準備していった卒業生が少なくありません。
10、20年後の日本は、人口減少、高齢者の増加とその福祉と年金の問題でますます不透明感が増すでしょう。どのように生きるかという個人の関心と社会への貢献という観点から、学びと探究を机上とフィールで行う教育。新しい教育の内実化を目指して実践を進めます。